WebGIS の新たな表現手法を目指したストーリーテリングコンテンツ
PLATEAUのデータを用いて、新しい地図表現技法の有用性を検証するためのコンテンツを株式会社Eukaryaと共同制作しました。https://www.mlit.go.jp/plateau/plateau-pffa/
GISコンテンツが持つ課題
GIS(地理情報システム=Geographic Information System)コンテンツは大きく2つの側面で課題を持っているとされています。CesiumJSのような地図エンジンは多機能であり、地理情報を活用したコンテンツ開発を得意としますが、データ表現の幅が広いとは言えず、リッチな表現は比較的不得手といわれています。一方、UnityやUnreal Engineのようなゲームエンジンはリッチな表現が可能になるものの、本来データが保持する地理情報をうまく扱えることができないとされてきました。
EukaryaのオープンソースWebGISツール”Re-Earth”
株式会社Eukaryaの自社サービス”Re-Earth”は、3D地球儀上にデータを可視化できるオープンソースのWebGISツールです。”Re-Earth”は、PLATEAU のデータをプレビューできる、ブラウザベースのWebアプリケーション「PLATEAU VIEW」の基盤システムにも採用されています。
Webエンジンを用いた地図エンジンの活用
そこで、今回はEukarya社が培ってきたノウハウを活用して、WebGISエンジン上の表現における制約や課題に取り組み、既存の地図エンジンにおけるデザイン性 / 没入感 / 臨場感のあるコンテンツ制作の限界や可能性を探りました。
Panoramatiksがコンセプトやストーリー作成、アートディレクションやデザインを担当し、Eukarya社が実装全般を担う役割分担でプロジェクトは進みました。
ストーリーテリングを用いたナラティブな体験
今回のテーマには、東京大学の渡邉英徳教授にも協力いただきながら、地理情報に紐づけやすく、かつオープンデータとして発信されることの多い「防災」を選択しました。体験設計を組み立てる上で、本コンテンツは「ストーリーテリング」という手法を用いています。地理空間データや地図を、ナラティブなコンテンツと組み合わせることで、伝えたいメッセージやコンテンツをより魅力的に、効果的に伝えるができるとされています。また、ユーザーのコンテンツ受容における能動性を高めるため、防災の中でも災害発生時に影響を受ける人口の多い、東京都の首都直下地震を題材としました。
東京における防災対策
東京都では「首都直下地震等による東京の被害想定」報告書を発行しています。南関東地域において30年以内にマグニチュード7程度の首都直下地震が70%程度の確率で発生すると予想されている中、防災力の強化を推進している東京都が、想定される被害想定と取り得る対策をまとめたものです。今回、この資料を読み解きながらストーリーを構築し、データを整備していきました。
WebGISならではのデータビジュアライゼーション
ストーリーは現在の東京の姿から、都心南部直下地震もしくは多摩東部直下地震が発生した際の「震度」「全壊棟数」「焼失棟数」「液状化」を描きます。Project PLATEAUの3D建築物データと、災害・防災に関するオープンデータを掛け合わせたデータビジュアライズは、WebGISエンジンだからこそ実現できる表現となりました。
未来のために
コンテンツは公助における取り組みをエピローグとして終わりを迎えます。今回このコンテンツで表現した被害想定は、東京という大都市の実情をなるべくリアルに映し出すべく算出されたデータを元にしていますが、仮説には常に例外があります。自然災害というものは、その性質上、予測困難な要素を抱えています。未来が不確かだからこそ想定された結果だけにとらわれず、いつ、どんな条件下で起きるかわからない大規模地震にそなえて、自助・共助・公助すべての力を結集して大規模地震に立ち向かっていくべきではないか、ということをメッセージに込めています。